これでも原稿用紙4枚なんだから読書感想文はクソゲー

はじめに、私は本の虫でもなければ著者のファンでもない。そして気の利いたコメントや彼の作風の魅力を語ることもできない。もしも貴方が彼や本書のファンで、今この文をよんでいるのであればそのことをご了承頂きたい。

 

特別な思い入れがあるわけではなかった。浜松までの13時間、その暇を潰せれば何でも良かったのだ。私は小説を選んだ。持ち運びやすく、長く楽しめるからだ。この本を選んだ理由はそれだけだ。事実、同じ理由でもう1冊別の小説を買ってあったのだ。ただ、この本の帯に書かれた「全ページ伏線!?」という文言が私の目に止まったことは述べておかなければならない。

 

ホワイトラビット 伊坂幸太郎(新潮文庫)

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1ページ1ページめくって確認した訳では無いが、なるほど確かに、伏線のようなものが大量に、まさに張り巡らされている。視点や時間が変わる度に、頭の中で作り上げた事件の構造が崩れ去る。それはまるで、絡まった知恵の輪がほどけたかと思えばまた絡まってを繰り返すかのように。そう思うのは、私が電車の中でこの本を読みながら知恵の輪を弄っていたからだろうか。

 

事件というのは、物語の核を成す「白兎事件」のことだ。もっとも、これは語り部と我々読者の間だけで共有されている呼び名で、登場人物は知らない。あくまで物語中では「仙台市のある一軒家で起こった立て篭り事件と、それに付随するいくつかの不可解な出来事」とされている。

 

作中では、様々な視点、時間から「白兎事件」の内容が語られ、謎が明らかとなっていく。

 

このなんとも壮大で難解な物語は主人公兎田の視点から始まる…

 

兎田は誘拐組織の実行部隊に所属しており、今日もマニュアル通りに人質を狙う。噂によれば組織のコンサルタント「折尾」が組織の金を隠して逃げたらしいが、お上の揉め事など下っ端には関係ない。言われた仕事をこなすだけ。家に帰れば愛しの妻「綿子」ちゃんが待っている。

しかし夜になっても綿子ちゃんが戻らない。そこに一本の電話が入る。

お前の妻を預かった

 

仙台のとある一軒家、そこに母子と銃を持った男がいた。男はかなり苛立っており、ある人物を探しているようだ。この家にいるはずだと、探している人物の写真を見せる。息子も母親も知らないと答える。家には誰もいないのかと聞くと、いないと答える。怪しんだ男が2階を見るとそこにはいないはずの父親がいた。

 

黒澤と今村は空き巣を働こうとしていた。しかし今村が隣の家に忍び込んでしまい、そこで落し物までするという大ヘマをやらかす。

 

上の3つの小話は作中に出てくるもののごく一部である。これらはそれぞれ別々の所にあるように見える。しかし、白兎事件という混沌がそれらを巻き込み、繋ぎとめる。奇跡とも呼べるバランスで。そうして生まれた、ねじれにねじれた知恵の輪を、地道に地道にほどいていくと、全ての答えと、1本の糸になった伏線が残るのだ。全てを解き明かした達成感と、全てを知ってしまった寂しさ。この2つが痛烈な記憶となって頭に刻み込まれる。

 

ちなみに物語は1つ目の小話、綿子誘拐事件の決着→エピローグで幕を閉じる。綿子の運命と白兎事件、気づかないまま事件に巻き込まれていく(いた)人達の結末。この記事を読んだ貴方の頭に知恵の輪が出来上がったのであれば、その解法は「ホワイトラビット」にある。

 

P.S.ちなみに読みながら弄っていた知恵の輪だが、読了後相生付近で外すことに成功した。が、戻せなくなった。助けて。

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