合宿編Part3

たかが歯車1つに幾つ手順を踏むのだろう、私は「自動」車に乗るためにここに居るのに。そんな戯言を言う間もなく教習は続く。ついにバイクで路面を走る。

結論から言うと、バイクで走るのはそこまで怖くなかった。車体を傾けて曲がると聞いたものだから、何度コケれば許してもらえるだろうかとばかり考えていたのに。走行中のバイクは私が思っていた以上に安定していたし、傾けようとしなくても傾いてくれる。変速の度にこの世の終わりのような振動と私の知るバイクからは聞いたことの無い嫌な金属音が襲ってきたが、とにかく乗った。乗れたのだ。

問題はその後である。走っているバイクを止めなければならない。車というのはブレーキをかければ止まるようにできている。バイクも例外ではない。

私は右手足でブレーキをかけた。車体は推進力を失い、同時に安定性も失った。気力のない200kgの鉄塊は私の左内腿にダイレクトアタック。回る視界。金属とアスファルトがぶつかる音。走る鈍痛。

 

かくして私の記念すべき初乗車は散々な終わりを迎えたのである。

 

教習を終え、食堂に行くと後輩ともう1人、合宿メンバーの誰かと食事をしていた。あの短時間でかなり距離を縮めたようだった。なんと羨ましいことだ。私はこの絶望の10日間を、たった1人で闘い抜く覚悟を決める他ないというのに。

その後は宿舎の説明があった。綺麗な寮とは言えなかったが、4年間もっと酷い学寮にいたので無問題。その日はシーツを敷いてさっさと寝た、もう動けなかった。

合宿2日目、初めてシミュレータなるものを使った。教科書を忘れたことを怒られたが、そもそも技能教習に教科書が必要だという説明を受けていない、とは言わなかった。正直シミュレータは標識を見る練習にしかならなかった。車体が動かないので速度感が全く分からない。よく分からないまま始まり、よく分からないまま終わった。

後半は実車を使っての教習、ついに課題走行の練習が始まった、始まってしまった。S字クランク、スラローム一本橋etc…二輪の卒検ではそれらの課題コースを道交法通りに走ることになる。SASUKEみたいなもんである。調べて貰えばわかると思うが課題内容は総じてキチガイである。しかし自腹で11万切ったので今更あとには引けなかった。

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この日はS字、クランクの練習。怖くなって下を見てしまうと曲がれなくなる。そしてコケる、怒られる。恐怖だけはどうしようもない。

その日の夜、後輩とR君と菓子パをした。R君というのは、後輩と一緒にご飯を食べていた誰かさんのことである。私達3人は同じ時間割で教習を進めていくので親睦を深めるにはちょうど良かった。R君はとても良い人であった、原付経験者で知識もある。何も知らない何も出来ない私を何度も励ましてくれた、アドバイスをくれた。私が合宿を乗り切れたのは彼のお陰でもある。

3日目以降もひたすら課題の練習。教習の最初の慣らし走行でバイクの扱いにはだんだんと慣れていく。終始速度不足で怒られはしたけど。

肝心の課題走行については察していただきたい。