みんな裏島太郎作ったことあるでしょ?

御伽噺をアレンジして遊んだ経験はあるだろうか。浦島太郎であれば、玉手箱の正体は太郎を陥れるために乙姫が仕込んだ罠だとか。ウサギとカメであれば、ウサギが舐めプかました上で勝利するとか。そういう脚色をしたことはないだろうか。

子供の頃から聞かされ続けた展開に嫌気がさしたのか、自分の方が上手く話が書けると勘違いしたのか、中学生時代はよくそういう妄想をしたものである。

そしてそれは大抵、物語としての構成を度外視した痛々しい厨二物語にしかならない。とりあえず主人公をダークヒーローとして描いてみたり、とりあえずハッピーエンドをねじ曲げてみたり。今思い出すと何が面白かったのか見当もつかない稚拙で浅ましい脚本ばかりであった。かぐや姫の物語において"long long ago"に2つの意味を持たせる芸当をやってのけた高畑勲監督はやはりすごい人なのだ。

さて、この遊びは今を生きる我々だけのものでもないらしい。一昔前、あの「桃太郎」を書き直した超有名作家がいる。芥川龍之介である。彼の描く桃太郎伝説を紹介させて頂きたい。ちなみに本編は検索すれば無料で読めるので気になったらそちらを先に読んで欲しい。

 

物語の始まりはいつもの老夫婦

ではなく巨大な桃の木から始まる。この桃の枝は雲まで届き、根は黄泉の国まで伸びているという。ユグドラシルのような桃があるのだ。その木になる桃もやはり大きく、さらに実一つ一つに子を宿しているのだという。そんなクソデカピーチだが1万年に1度実を結び1000年に1度落ちるという設定がある。8000年過ぎた頃からもっと恋しくなるのだろうか。

そんな桃の木に1羽の八咫烏が飛んできて実のひとつを落としたのである。落ちた先は谷川、そしてその末には

洗濯に来たおばあさんがいるのである。

 

桃太郎は鬼ヶ島討伐を思い立った。

超展開も甚だしい。ちなみに思い立った理由はお爺さんお婆さんのように畑仕事をするのが嫌だったからである。大義もクソもあったものでは無い。そして腕白小僧に愛想を尽かしていた老夫婦は万全の装備を整えてさっさと送り(追い)出してやったのだという。大分お歳を召されていらっしゃるだろうから、もう少し穏やかな心持ちでいて欲しいものだ。

 

そこからは皆様ご存知犬をスカウトするシーンがこのように描かれている

 

「桃太郎さん、お腰に提げたものはなんですか?」

「これは日本一のきびだんごだよ」

桃太郎は得意そうに返事をした。しかし実際の所、日本一かどうかは彼にも怪しいのである。←ここすき

「一つ下さい、お供しますよ」

「一つはダメだ半分やろう。」

 

クズである。並の中学生なら犬に「団子一つで命張れるか」と言わせるシーンだがさすが芥川である。桃太郎のクズさに磨きをかけてきた。そして残る2匹の兵力も日本一()のきびだんご半分で手に入れるのである。

何はともあれ、これでパーティーがそろったのだが

好戦的な犬は意気地無しの猿を馬鹿にし

金にがめつい猿は真面目な雉を馬鹿にし

学のある雉は頭の鈍い犬を馬鹿にする

というゴミのような三すくみができあがっており、いがみ合いながら旅を続けたのだという。

その上で猿はイラつくと不服を唱え出した。団子半分では割に合わないと。ごもっともである、がこいつに言われると腹が立つ。それを聞いた犬がブチ殺しにかかり、雉が止め猿に忠義を説いたが聞く耳を持たない。

しかしさすがは桃太郎。

「ついてこなくてもいいけど宝物あげないよ」

「行きます」

と、見事に猿を懐柔するのである。我々はやはり勘違いをしているのだ。何の見返りもなしに命を張れるわけがない。ジャンプ主人公がおかしいだけで普通はこうあるべきなのだ。この記事を五輪関係者が見ていたら是非ボランティアの起用を考え直してもらいたい。

 

ここまでで全六章のうち二章まで紹介した。長い文章にはしたくないので、まずはこの辺りで留めさせて頂く。